JOURNAL

年末年始7泊8日の北九州ひとり旅

2025.01.02
年末年始7泊8日の北九州ひとり旅

11年振りに正社員になってみて1年が過ぎた。日々貴重な経験を積ませてもらっている一方で、先の11年間いちばん大切にしていた“自分を自由にする時間”はおそろしいほどに減ってしまった。

一応、出社日に都内に前泊してYOASOBIに耽ったりはしているが、そういうのでは慰めきれないものを感じ始めていた。「何のために生きてンだっけ…」と懐かしくも無意味な自問すら首をもたげる。このままではくたばってしまう。自由を補充する特効薬が必要だ。“旅欲”は限界頂点に達していた。

折しも今年の年末年始は「奇跡の9連休」。家族は東北へ帰省することになった。千載一遇。こんな機会はそうないだろう。やるぞ。今こそゆくのだ、九州へ。

東京九州フェリー編

これまで九州には一度も足を踏み入れたことがなかった。

旅好きを自称しておきながら恥ずかしい話だが、青春18きっぱーの自分にとって、鈍行列車では1日で到達できない九州地方は目的地としてのハードルが高かったのだ。(ちなみに始発に乗っても山口県までしか辿り着けない)

かといって新幹線や飛行機は気が進まない。お金がないわけではなかった。ただ、気候が変わるほど遠くの土地にものの数時間で着いてしまうというのは、味気ない。これは出張でも帰省でもなく”ひとり旅”。ゆえに移動は手段ではなく目的なのだ。

そこで出会ったのが横須賀港〜新門司港を結ぶ「東京九州フェリー」。

海上で一夜を明かしつつ、22時間かけて北九州に入港するという。さらに船内には露天風呂やシアタールームまであるらしい。のんびり滞在しながら期待と不安に胸を膨らませる、まさに新天地への理想的なコンタクトではないか…!

旅のはじまり:横須賀港

横須賀港。本格的な客船を目にするのが久しぶりすぎて「デカすぎんだろ…」と口にした。
「北九州行きフェリー…!!!!」こういうのでテンションが最高潮になってしまう。
「デカすぎんだろ…」(2回目)

フェリー乗り場は新しくてキレイだった。大きな窓沿いのカウンター席で、船に吸い込まれてゆく自動車たちを眺めながら仕事納めをする。(厳密には翌々日に半日だけ稼働するのだが、心情的には仕事納めだ。なにせこれから未踏の地への船旅なのだから!)と、内なる声が早口で捲し立てる。いよいよ乗船だ。

名探偵コナンでしかお目にかかれないような豪華客船‼︎(当社比)
深夜だが当然のように全フロアのマップを埋める作業に勤しんだ。旅好きにとってそれは欠かせない儀式なのである。
フェリー乗り場のお姉さんから買ったクラフトチューハイを甲板で。出港とともに乾杯した。

【1泊目】すずらん ツーリストA

少年自然の家さながらの26人部屋。仕切りはちゃんとしてるのでドミトリー慣れしている人なら問題ないだろう。鍵付きの荷物入れはないが、ロビー至近(船内活動のどまんなか)に100円返却式ロッカールームがあったのでそちらをヘビーユーズ。導線的にはとても快適だった。

唯一の欠点にして特徴的な味わいは、当たり前だが船の上ゆえ22時間ノンストップで「揺れている」ことだ…。

太平王横断 22時間の船旅

サウナ上がりのハードボイルドな夜食と、水平線を眺めながらのゴキゲンな朝食
甲板へ足を運べばいつでも海に出会える

この船の目玉はなんといっても大浴場。サウナ付きの露天風呂である。

ホームページをチラ見したときはいいとこ窓張りのオーシャンビュー内風呂だろうと見くびっていたが、違う。リアルガチの露天だった。船体が切り抜かれたようなスペースに鎮座する岩風呂。そこへ海風がダイレクトに吹き込んでくる。ときおり、といっても10秒に一度くらいでやってくる突風がバッと水面を叩き、われわれ入浴者を容赦なく凍えさせた。

サウナもおまけってレベルじゃない。しっかり温まる、質のいいサウナだ。広さも申し分ない。そもそも船でサウナに入り浸ろうなどという物好きは希少な生き物ゆえ、混まない宿命にある。12分時計が掛けてあるのもポイントが高い。すりガラスの窓からはぼんやりと露天風呂越しの大海原が見える。

露天風呂は大人4〜5人で丁度というコンパクトサイズだが、大半の利用者は前述の海風に負けて早々に退散するため長く浸かる人は少ない。自分を含む希少な生き物らはその海風を水風呂がわりにし、半身浴でととのう。和歌山・紀伊半島の稜線を目で追いながら、過ぎ去った1年間に想いをはせる男たち。目を細めるその横顔に、旅情があった。

インターネットはまれに繋がるが、ほとんど絶望的。どうにかオフラインで副業を進めたりもしたがいずれはそれも諦め、ひたすらサウナに入ってはビールを飲むようになる。
シアタールームでは「劇場版ルパン三世VS名探偵コナン」がエンドレス上映されていて、初回上映を除けば基本ガラ空き。カーテンを潜ればいつでも彼らに会える癒しの空間だ。なにせチョイスがいいよ作品の。

【2泊目】小倉駅前のゲストハウス

夜10時ごろ新門司港に入港。

時間的にこの町に宿を取るほかはない。駅前商店街のキャッチを掻い潜り宿へ向かう。本来であれば世話になるゲストハウスは隅々まで楽しむ派だが、今夜ばかりは寝るだけだ。

だからってこのロビーは怖すぎる。布団は良かった。

別府編

いつでもそばに山がいる町が好きなんよ

早起きをして別府行きの普通列車に乗り込む。

基本的に旅は鈍行がいい。景色の移り変わりを楽しめるし、地元の人々の生活を垣間見ることもできる。

この列車でも九州弁の女学生4人組がキャッキャとはしゃいでいた。あんなにおしゃれな子たちが、一体この先のどこで降りるというのか。さては別府は想像よりずっとナウい町なのか?などと考えながら地図アプリを弄っていると、彼女らは杵築(きつき)という駅で降車した。まわりには何もない。そうか、きっと田舎に住むお友だちの家に遊びに行ったんだな。まだまだ可愛いお年頃だ…。

翌日地元の人にこの話をして、自分が阿呆な勘違いをしていたと知るのであった。

昼の別府:とり天と砂風呂

宿に到着してすぐ、3時間だけリモートワークをする。正真正銘の仕事納め。空は快晴、腹はペコペコ。午後は半休だ。

宿から徒歩40秒の共同浴場・南的ヶ浜温泉。がらんとした浴室の中心に大きな浴槽がででんと構えている。宿泊者は入浴チケットを1枚もらえるうえ、手ぶらで入浴セット(桶・シャンプー・ボディーソープ)を無料で貸してもらえる。
別府湾。宿から徒歩10分足らずでこの景観に出会える。
「とよ常」の特特盛天丼(海老3本)と特製とり天。腹ペコゆえに豪遊してしまった。以降、腹ペコ→豪遊はこの旅のセオリーとなってゆく。
竹瓦温泉。300円で利用できる広い共同浴場があるほか、貴重な砂風呂が体験できる。サウナ好きの上司に与えられた冬休みの宿題の1つに「砂風呂へ入れ」というものがあったので、ここを訪れた。
整理券を取って1時間ほど待ったら、いよいよ「砂湯」へ。浴衣を着たまま重たい砂に埋められる。スマホを持ち込むと自動的に砂湯おじさんが写真を撮ってくれる(男ひとり旅には要らない)サービス付きだ。途中で鼻の下がかゆくなるが、なす術がない。

会社のリモート忘年会に参加するため、日が暮れる前に宿へ。 カフェのようなおしゃれなロビーに人はまばら。自宅と変わらない快適な空間で、締めのビールをいただく。今年もおつかれさまでした。

さて、まだまだ宵の口。

実は先ほど訪れた竹瓦温泉の周辺の町並みが非常に気になっていた。あそこをほろ酔いで散歩してみたい。貴重品を鍵付きロッカーにしまい、夜の町へと繰り出した。

夜の別府:元町風俗街

暗く鎮まった裏路地で異彩を放つ電光掲示板。思わず目を奪われる。

ここだ。

歴史ある温泉の徒歩2分圏内に、ギラッギラの風俗店がひしめいている。

なぜこんなところに風俗街が?完全にノーマークだった。うらぶれた温泉街の遺構というわけでもない。ほとんどのお店が現役のようだった。だがキャッチのお兄さんお姉さん方はまるで鬱陶しくなく、というかそもそも人数が少なく、同じ人と何度も顔を合わせた。

「お兄さん、何お探しですか」 「可愛い子いるよ」

夜の新橋を歩けば聞こえてくるような問いかけも、風情ある温泉街で聴くとノスタルジーを感じてしまう。電光掲示板の「美女多数♡」の文字さえも愛おしい。何だか楽しいやら切ないやらよくわからないテンションで、この元町風俗街を歩き続けた。とんだ冷やかし観光客である。

その後はお酒が恋しくなり、地元のオタクたちが集うアニソンカラオケバーと、オールディーズの生演奏が聴けるクラブに寄って、帰路に着いた。

番外編:元町風俗街のねこと北浜商店街のねこ。

【3泊目】ジェイホッパーズ別府ゲストハウス

ドミトリー部屋にはトイレ・洗面台・シャワーがあり居住性が高い。徒歩40秒で共同浴場、繁華街までは住宅街を一本道、とロケーションも抜群だ。何より共有スペースであるロビーがすばらしい。

今朝は地元の名店「友永パン屋」に並び、ロビーのカウンター席でゴキゲンな朝食を取った。ドリップコーヒーは無料。徒歩5分のコインランドリーに放り込んできた洗濯物が乾くまで、旅の与実報告をノートに書き込んでいく。

友永パン屋。つい先日テレビで特集になっていた気がする。珍しく行列に並んで疲れたが店員のお姉さんが美しかったのでチャラになった。
ゴキゲンな朝食。もう5個あったが帰り道で消えてしまった。

鉄輪むし湯と地獄めぐり

別府公園

風光明媚な別府公園からバスに乗り、「地獄めぐり」の鉄輪温泉へ。

7泊8日の長旅ともなれば旅先での筋トレも欠かせない。途中、エニタイムフィットネス別府やまなみ店に寄って背中を責める。この疲労感が温泉をより沁みさせるというものだろう。

鉄輪温泉には湯けむりが立ち込め、温泉街に来た感が十二分に味わえた。いちばんの目当ては「鉄輪むし湯」。ここに入れというのが、サウナ好きの上司に与えられた冬休みの宿題のその2であった。ちょうど数日前に偶然テレビの特集で目にしており(ネタバレを喰らったカタチである)見覚えのあるおばちゃんが受付に立っていた。

浴衣に着替え、竈門のような狭い空間で寝転ぶ。敷き詰められた石菖(セキショウ)の香りとともに熱が全身にしみ込む感覚があった。腕には玉の汗。ミニ外気浴エリアが備えられているのでととのいも可能だ。サウナ好きなら砂湯よりこちらだろう。おすすめである。

冬の晴空x湯けむりxコーヒー牛乳。このきもちよさ、伝わるだろうか。
地獄めぐりはゴールに位置する「海地獄」だけのぞき見て、あとは観光客に混ざって散歩するだけであった。ひとりは旅はこれでいいのだ。これができるから、いいのだ。

立命館アジア太平洋大学

地獄めぐりもそこそこに、バスで山道を登ってゆく。行き先は別府の町を見下ろす天空の学舎、立命館アジア太平洋大学だ。

自分はここの卒業生ではない。じゃあなぜ訪れたのかというと、大学キャンパスめぐりが趣味というのもあるが、会社の優秀な同僚がここの出身と聞いたからだ。いつでも自信満々で飄々とした彼のルーツが、知りたかった。

実際にここに佇んでみて見えてきたものがある。

ここ立命館アジア太平洋大学には各国からの留学生が集うという。そして、標高300メートル級の山の中腹にあるキャンパスから見下ろす別府の町並みはとても小さく、儚げだ。グローバルな学友たちとこの景色を共有するうちに、文字通り視座が高くなり、並大抵の悩みはちっぽけなものに思えてくるのだろう。そんな気がする。そうだ。同僚の彼だって、別府のことを「下界」と呼んでいたーー。

年末の日曜日。誰もいないキャンパスでカップラーメンをすする。その味は無類であった。

ところ変わって再び元町風俗街。

寂れた路地の入り口。まるで夜の無料案内所のようなロケーションの元町バルというイタリアンで、一人晩酌をした。「深夜食堂」のマスターのような渋い店主と、賑やかな夫婦漫才を繰り広げる若い男女のスタッフ。出てくる料理は絶品揃いだ。

元町バルのクアトロフォルマッジとボンゴレ・ビアンコ。デザートはスタッフさんおすすめのフォンダンショコラ。どれも美味しいのに、めちゃくちゃお手頃価格なのだ。通いたい…

必ずや再訪せしめんと胸に決めつつ会計をすると、奇遇なことに、男の子のスタッフは立命館アジア太平洋大学の在学生と聞く。思い返せば夫婦漫才の節々で彼の自信満々で飄々とした性格が垣間見えていた。似ている。そうだ。同僚の彼だって、女性の扱いがうまかったーー。

【4泊目】ジェイホッパーズ別府ゲストハウス

千鳥足で宿へと帰還。いい夜だった。

長崎編

共同浴場の朝風呂と宿のドリップコーヒーをキメたあと、一路長崎へ向かう。

地図で見てみると分かるが、別府と長崎というのはなかなかに離れている。線路が素直に繋がっているようには見えないし、ここを如何にしてルーティングするかは公共交通機関トラベラーにとって鬼門であった。だが往々にして人が想像できる課題には既に解決策があるものだ。大分・別府サンライト号。税込4,720円のソリューションである。

かくして極めて快適に長崎市・出島へと到着するわけだが、予約していた宿がエレベーターなしの4階かつ無人チェックインで、早々に悲しくなってしまった。もう別府が恋しい。※ひとつ前の町が恋しくなるのは長旅あるあるである。こういう時はお気に入りの場所を探すに限る。ところで腹がペコペコだ。

長崎ちゃんぽんと夜のグラバー園

出島の町中華「江戸びし」の特製ちゃんぽん。ありえへん具材のボリュームでもはや海鮮鍋の様相を呈している。ミニ炒飯も濃味で大変好みであった。早速お気に入りのご飯屋さんができて、上機嫌。

長崎といえばキリスト教会群と夜景であろう。一泊の予定だから夜歩きのチャンスは今夜だけ。観光は欲張りなくらいがおもしろい。膨れた腹をさすりながら、南へ歩き出した。

グラバースカイロード。丘の上にあるグラバー園へアクセスするための斜行エレベーターだ。
鍋冠山の遊歩道。冬にコートを脱いでしまうほど心臓破りな傾斜の上、暗い。
鍋冠山展望台から見た長崎市街。これほどの絶景、一人で見に来ているのは自分だけであった。
グラバー園はイルミネーション真っ盛り。子連れが多く、一抹のさみしさをおぼえたが、ビールで飲み込んだ。
教科書か何かで見た建物だ。

ひとまず「長崎の夜景を見る」にはチェックがついた。だが、長崎には今夜のうちに行っておきたい場所がもう一つあった。地図アプリで見つけて気になっていた、とあるサウナである。

丘の上のプライベートサウナ

バスで丘を登った先にあるのが「長崎サウナかめやま」、今夜のゴールだ。

プライベートサウナなるものを訪れたことはほとんどなかったが、これはハマってしまう。気持ちいい。

運も良かった。施設にいたのはけものフレンズのアルパカのような雰囲気のホスピタリティあふれるスタッフさんと、招待枠で訪れていた彼女のご家族だけだった。ほどなくして利用者は自分1人になり、上質なバレルサウナとインフィニティチェア、100万ドルの夜景を独り占めすることとなる。

至福の時間。レンタルのサウナポンチョがまたよい。
レンタルセットについてくる恵比寿ビールをグラスに注いでくれた。

【5泊目】アルマスゲストハウス出島

朝起きて共用スペースに行くと、昨日会えなかった宿の女将が迎えてくれた。優しい人だった。昨日半ベソで無人チェックインをしたこの部屋も、よく見ればたいへん素敵ではないか。広い窓から朝日が差し込み、出島表門橋を行き交う人々が見える。タイミングによって世界は色を変えるのだ。だからこその、一期一会。

出島を眺めながらミカンとコーヒーをいただく。

稲佐山温泉・ふくの湯にて沈没

長崎2日目。昨晩の成功体験を活かして、この町では「景色」と「サウナ」を満喫することにした。長崎市を一望できる稲佐山。その麓にやんごとなきスーパー銭湯があるという情報を得たので、荷物を宿に預けて稲佐山へ向かった。

稲佐山スロープカー。片道300円で稲佐山公園から山頂の展望台まで連れて行ってくれる。ジェットコースターみたいで楽しい。
稲佐山の山頂にて。BGMは葉加瀬太郎の「希望」。
スロープカーの高架下。
やんごとなきスーパー銭湯を目指して、稲佐山を下ってゆく。1時間かかるらしい。
ついに到着。足腰はスクワット翌日のような状態だ。さぁ癒してくれ。

徒歩1時間かけてたどり着いたのが「稲佐山温泉・ふくの湯」。結論、ダントツで総合点の高いサウナ施設であった。

露天風呂は長崎サウナかめやまに匹敵するビュースポットであり、十分な数のととのいベンチのすべてからその景観を楽しめる配置だ。サウナもたいへんよろしい。特に「瞑想空間」と謳われたスチームサウナは静寂に包まれていてツウ好みであった。

特筆すべきは別料金で利用できる6種類の岩盤浴だ。男女共用で館内着を着てまわる所謂“スーパー銭湯の岩盤浴エリア”に対して「所詮は女子供のお遊びよ」とあらぬ食わず嫌いをしていた自分だが、大きな間違いだった。少なくとも「ふくの湯」の岩盤浴は、本気だ。おすすめは最も室温の高い「火福洞」と「塩」。寝転んでいると鉄輪むし湯レベルで芯まで温まる。「火福洞」ではロウリュ&アウフグースも催していて、若いスタッフらが天狗の扇のような巨大うちわで必死に仰いでくれた。

願わくば永遠にここでふやけていたかったが、博多行き高速バスの出発時刻が迫っていた。いつか必ず再訪したい。

ここだけは見ておかねばと、平和記念公園を旅程にねじ込んだ。浦上天主堂は次回のお楽しみに。

長崎市を発つ時が来る。短いようで長い一泊だった。住めば都と言うべきか、別府を離れてここに着いた時はあんなに心細かったのに、今ではもうこの町を離れたくない。人生の縮図か。涙、ではなく生ビールを飲んでバスに乗り込んだ。

最後の晩餐は再び「江戸びし」にて。ちなみにこちら、年末年始だけかもしれないが、親子三代でやっているようで、小学生のお子さん2人が店を手伝っていて微笑ましかった。大将(おじいちゃん)に「素敵なお孫さんたちですね。お年玉は弾んでやってください(笑)」と冗談めかすと「身の細る思いでございます(笑)」と粋な返し。

博多編

博多に着いたのは21時半を回った頃だった。このまま寝てしまってもいいが、明日は大晦日だ。YOASOBIに耽るならば今夜しかなかろう!九州一えっちな繁華街、中洲に潜入だ。

と息巻いたものの、年末の中洲の喧騒は凄まじかった。飲み屋はどこも満員。キャッチは別府とは比較にならない勢いでグイグイくるし、断れば「この時間じゃ酒も女もラーメンも選べませんよ、お兄さん」と捨て台詞を吐かれる。おれはこのままラーメンの一杯も食えずに寝るのか…。とぼとぼ歩いていると、目に飛び込んできたのは「博多ラーメン290円」の文字。中洲とは縁がなかったが、博多ラーメンにはありつけた。

「はかたや」の博多ラーメン。きくらげをトッピングしても340円、安すぎる。東南アジアの屋台のようだ。心も体も財布も温まった。

【6泊目】博多中洲のゲストハウス

中洲徒歩2分の好立地のゲストハウスに、2泊の宿を取っていた。

しかし、ただでさえ「中洲には縁がないな…」と意気消沈の折。加えて宿の主人は無愛想。共用スペースは狭くて窓もなく、人もいなけりゃテレビもない。極めつけは寝室の窮屈さ。頭をぶつけまくる二段ベッドの上階からは一晩中イビキが鳴り響いた。「こんなところで年が越せるか!」真夜中にガバッと起き上がり、血眼になって旅のプランを練り直す。一時は別府に帰ることすら頭をよぎった(アホか)。結局、明日は個室のホテルに泊まることにした。達成感に包まれて眠りにつく。イビキは鳴り止まない。

みなと温泉・波葉の湯にて沈没

大晦日を博多でどう過ごすか、これは完全にノープランだった。とりあえずエニタイムフィットネス店屋町店でバーベルを上げ下げしながら心の声を聴く。「サウナでゆっくりしなさいーー」寝不足で疲れた身体がそう囁いた。

みなと温泉・波葉の湯」は今の自分にうってつけの場所だった。大浴場は若い九州男児で混雑しているし、岩盤浴のクオリティも「ふくの湯」には遠く及ばない。しかし岩盤浴エリアにあるコワーキングスペースは最高の空間だった。電源・Wi-Fiを完備し、ヨギボーやハンモックなども転がっている。それでいてガラ空きだ。開放的なカウンター席からは博多ふ頭が見えた。

このまま夕方まで沈没。こんな大晦日もありだろう。

CHILL OUTを啜りながら、フェリーで満足に進められなかった副業に勤しむ。
博多ポートタワーを見上げる外気浴バルコニー。年末年始でなければテントサウナも営業しているらしい。ちょっと気になる。

年越し

福岡市地下鉄空港線に乗り、博多湾沿いの「シーサイドももち」エリアに降り立つ(なんて可愛らしい地名なんだ)。

昨夜に予約したザ・レジデンシャル・スイート福岡は、高層マンションの一部がホテルになっているタイプだった。エントランスは一面の大理石、フロントのお姉さまもお上品だ。高級感が漂う。ここなら安心して年を越せよう。チェックインを済ませ、えびす顔で徒歩3分のスーパーで酒とつまみを買い漁った。爆買いというのは一人でやっても楽しいものだ。

ひとり年越しセット。正直買いすぎた。
東北にいる家族とビデオ通話をつなぎ、一緒に紅白歌合戦を見る。

やはり年越しはこんなふうに過ごしたい。見知らぬ他人にまぎれて孤独を味わうのが旅の醍醐味であり自分の好むところであるはずだったが、この日に関しては違ったようだ。またひとつ己を知ったと、大晦日にひとりごちる。

たらふく食べてしこたま飲んだら眠くなったのか、カウントダウンの記憶はない。気がつくとまどろみの中で「ゆく年くる年」を眺めていた。幸せだった。

【7泊目】ザ・レジデンシャル・スイート福岡

水平線に浮かぶ初日の出を一目見ようと浜辺を歩いてみるが、考えてみれば思いっきり西であった。苦笑いで踵を返すと…
結婚式場の大聖堂のステンドグラスに反射した、初日の出があった。

初日の出を拝んだあとは元旦のお笑い特番などを流しながら、大晦日の残りをゆっくりと食べて、飲んだ。

マンションホテルゆえ、キッチンも冷蔵庫も電子レンジもあれば洗濯乾燥機まであった。洗濯機を回し、湯を張った浴槽に入浴剤を入れてリラックスする。宿を変えたのはつくづく正解だった。こういう朝を迎えたかった。

大晦日に食べ損ねた年越しそば。椀がないのでチキンバスケットの容器を使う。天才だ。

バルコニーに出て深呼吸をする。

スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜〜〜〜ッ。

気分が良すぎてチェックアウトを1時間延長する。追加料金を支払うだけの価値があった。

太宰府天満宮へ初詣

年末年始旅の締めくくりはやはり、初詣だ。

今の会社に入ってから…いや今の職種に就いてから…いやいや、もう物心ついた時からだと思うのだが、自分のコンプレックスの一つに頭の悪さがある。賢くなりたい願望は常にあって、それゆえに学問の神様・菅原道真公が眠る太宰府天満宮には一度訪れてみたかった。

案の定すさまじい人混みだが、年に一度と思えばそれもまた楽しい。

コミケ以来の雑踏。
天気にも恵まれ、たいへん初詣っぽい画が撮れた。
太宰府名物・梅ヶ枝餅。ストーブで焼いた風のパリパリあつあつのあんこ餅だ。
竈門神社には鬼滅の刃の絵馬がたくさんあった。みんなうまい!
初詣帰りの夕日から旅情がほとばしる。

旅の終わり

福岡空港からLCCの飛行機に乗る。行き先は成田空港。旅が終わるのだ。

ホテルで荷物をまとめながら、この8日間を振り返った。

旅の主役・キャリーバッグは、25歳でヨーロッパ一人旅をした時にマルタ共和国のショッピングモールで買ったものだ。非常にコンパクトで、手持ちにもリュックにもなる3WAY式。長旅の機会が減ってからと言うものめっきり出番がなかったが、今回久しぶりに相棒に選んだのは大正解だった。

東京九州フェリーで買ったトートバックは、町歩きで大いに活躍してくれた。後半は土産用の手提げになっている。文明堂のカステラや博多通りもんを持ち帰れるのはこいつのおかげだ。必要な装備を現地調達するのも、旅のおもしろさである。

旅を通じて、バッグたちとの絆が深まる(?)

久しぶりに“旅欲”を存分に解放できた、良い旅だった。ひとり旅は自由と自立を確かめる大切な時間だ。忙しない日常に追われていても、この旅を思い返せば、自分を見失うことはない。

飛行機が無事に着陸した。成田から電車に乗り、家路につく。

吐いた息が白い。千葉はこんなに寒かったか。